茄栗

 

栗を食べると妻が笑う
食べ方が
父にそっくりと言うのだ

傾いた身代を十八歳で継いだ父
笛や太鼓の音には耳を塞ぎ
三十年後
大八車は水色のベンツに替り
石蔵の美術館を建て
地方の名士として雛壇にも据えられ
 宝くじに当ったみたい!
世田谷の土地に途方もない値が付き
生ぐさい息を吐いて笑った
生涯義眼を隠しつづけ
人より家が大事と
骨肉の相剋を深めていったいのち

 小さく萎んだ頭蓋
 もの言わぬ土色の唇
 うつろな義眼
息を引き取る前の晩
父の口に西瓜を含ませていて
突如 崩壊していくものがあった
   永い確執も終りはあっけない

冷たい水で顔を洗っても
濃いコーヒーをがぶ飲みしても
取り返しがつかない日々
さむい父と子の隔たり

二年後
献体から戻って来たときは
ひと握りの灰

栗を食べると妻が笑う
上手に剥けないのだ

 


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